トルファン

――神と人間が創ったオアシス  新疆ウイグル自治区の首府・ウルムチから東に182キロメートル離れたトルファン盆地は、ヨルダンにある死海(-392メートル)に次ぐ世界で2番目の 低地である。大自然はトルファンに海抜マイナス154メートルの低地と、年間降水量16ミリ、蒸発量3000ミリという環境を与え、ここを「火州」にし た。史上最高気温49.6度、最高地表温度82.3度から、この地方の酷暑のすさまじさを知ることができるだろう。トルファン盆地の中央に位置する火焔山 は赤色をした小高い山で、その山肌には侵食でできた細い溝が無数に走っている。この山を遠くから見ると、強烈な日差しに照らされた地表から立ち上る陽炎に ゆれ、まさに燃え上がる炎のようだ。

火州

トルファンでは、郊外の砂漠に生卵を埋めておくと、15分でゆで卵になり、皮靴を履いて砂漠を歩くと、熱のためにすぐに変形してしまう。だから、昔のト ルファンの役人たちは裸で水がめにつかり、仕事をしたという。今もトルファンでは、人々は地下室を掘り、日中は窓を閉め切って熱さを防ぎ、気温が下がる夜 に屋根に上がり、万年雪をいただくボグダ山から吹き降ろす涼風で量をとりながら眠る。

トルファン

しかし、トルファンはこの世の煉獄ではない。トルファンは豊かな果樹園である。新疆自治区を訪れる人は必ずこの地を訪れたいと思い、実際に訪れた人は必ずトルファンの葡萄棚の下を歩き、トルファンのウイグル舞踊に心酔する。  トルファンでは、広々とした高地に人はあまりいない。交河故城や高昌故城のような歴史遺跡か、そうでなければ蜂の巣のように網目になった壁で囲まれた葡萄の乾燥場である。この穴から吹き込む風によって、新疆特産の果実が楕円形をした緑色の葡萄は天然の干し葡萄になる 。

トルファンの女性

都市部を除けば、トルファンの人々が居住するのは水辺に近い低地、或いは葡萄溝、木頭溝、吐峪溝などの谷である。前庭に日よけの葡萄棚が作られた家々の 裏は、やはり葡萄園である。葡萄ほどトルファンに適した植物はない。学者の研究で、3000年前からトルファンでは葡萄が栽培されていたことがわかってい る。  乾燥した空気と風は意外なものをトルファンに残した。それは千年の歳月を経た天然のミイラをはじめとする歴史的文物の数々である。遠い昔のものが残って いるためか、今のトルファンの人々は古代と同じ服装を着ているように想えて、ここで旅していると、童話の世界に迷い込んだとも錯覚するほどだ。  私たちは列車で敦煌から一晩でトルファンに到着するが、7世紀の唐の時代、長安をこっそり出た三蔵は半年もかかってトルファンにたどり着いた。玄奘三蔵 が火焔山のすそ野をインドへと向かう。